3月7日(水)15時23分配信
ルビーの品質をチェックするアウントン氏(写真:筆者提供)
ミャンマーは世界一のルビーの産地である。そのミャンマーで若い時からリトル・ドラゴンと呼ばれて恐れられている人物がいる。アウントン氏(52歳)はミャンマーの大金持ちの一人である。彼の母親はシャン族で父親はパオ族とカチン族の血が流れている。インド系の血も流れているというから、ミャンマーの少数民族の代表と言った立場にいる。
子供のころは貧困な家庭の9人兄弟の末っ子として育ったが、12歳の頃から父親に連れられて行商の仕事をしたと言っていた。隣国のタイに入り込んで日本製のうま味調味料や家電製品の運び屋をやっていたと屈託なく笑っていた。行商をしてタネ銭を貯めて20代になってからルビーや翡翠などの宝石を扱うようになった。
人生の転機は、軍隊に入って備品調達などを通じて頭角を現したことで訪れた。シャン族の将軍に可愛がられて将軍の娘と結婚してからは、トントン拍子に軍隊の中で出世した。やがてシャン族の議員に選ばれて勢力を拡大しながらシャン州を中心にルビーや翡翠の権益を手に入れて、ついにはミャンマーで最大の宝石王にまで上り詰めた。彼と何度か会っている内に同じ価値観を共有できたので信頼関係ができた。
彼はシャン族だけでなく、ミャンマーの全ての少数民族を束ねている。少数民族の反政府軍の勢力は特に北部における資源権益と切っても切れない関係にある。
2010年11月には20年ぶりに全国規模の総選挙が行われたが、ビルマ族以外では彼が全国で第3位の票数を獲得したというから、少数民族の中ではトップ当選ということになる。アウントン氏の理念はミャンマーの資源を通じて新生ミャンマーを豊かにすることである。私自身も彼の考え方に賛同し、鉱山開発の総代理店契約を結んだ。
■鍵は少数民族との協力
1月に私は枝野幸男経済産業大臣のミッションでミャンマーを訪れた(『ミャンマーの夜明け』参照)。過去3年間、ミャンマーの鉱山開発を目的に何度か訪問しているが、ミャンマーで鉱山開発をすることは大変な仕事である。
ミャンマーはASEAN(東南アジア諸国連合)に残された最大の未開発の資源大国であるが、産業のインフラが未整備なのである。インフラが未整備である原因は、反政府軍が支配している北部の山間部の開発が困難だからである。
鉱山大臣との面談時に「ミャンマーの電話の保有率はまだ5%であるが、5年以内に保有率を50%以上にしたい。そのために、中国との銅の鉱山開発に注力したい」との意見が出た。
それに対して「携帯電話の基地局を5年以内に全国50カ所を無償で提供し、電話の普及率を50%以上にするから銅の鉱山の開発権を我々に貰いたい」との逆提案をした。今から全国に送電網を構築するには電線を張り巡らすより、日本の技術で無線の基地局を50カ所ぐらい設置したほうが多分コストは5分の1以下でできるからだ。
実は枝野ミッションの会議ではヤンゴンにおける商工会議所の重鎮との面談にも、首都ネピドーの政府首脳との面談にも、(私が知る限り)少数民族の代表者の顔は見つからなかった。ミャンマーの民主化は確実にそして持続的に推進されるが、電話の普及も銅鉱山の開発も、北部の少数民族のパワーと協力関係にならない限り成功はしないであろう。
表面的には民主主義国家への大転換を演出しているが、少数民族との折り合いを考えると、先の道のりはかなり厳しいと予見する。なぜならミャンマーの1人当たり国内総生産(GDP)の低さ(500ドル)は、少数民族との格差が足を引っ張っているからだ。アウントン氏は真のミャンマーの民主化を実現する新しいリーダーである。
著者:中村繁夫(レアメタル専門商社 AMJ代表取締役社長)
子供のころは貧困な家庭の9人兄弟の末っ子として育ったが、12歳の頃から父親に連れられて行商の仕事をしたと言っていた。隣国のタイに入り込んで日本製のうま味調味料や家電製品の運び屋をやっていたと屈託なく笑っていた。行商をしてタネ銭を貯めて20代になってからルビーや翡翠などの宝石を扱うようになった。
人生の転機は、軍隊に入って備品調達などを通じて頭角を現したことで訪れた。シャン族の将軍に可愛がられて将軍の娘と結婚してからは、トントン拍子に軍隊の中で出世した。やがてシャン族の議員に選ばれて勢力を拡大しながらシャン州を中心にルビーや翡翠の権益を手に入れて、ついにはミャンマーで最大の宝石王にまで上り詰めた。彼と何度か会っている内に同じ価値観を共有できたので信頼関係ができた。
彼はシャン族だけでなく、ミャンマーの全ての少数民族を束ねている。少数民族の反政府軍の勢力は特に北部における資源権益と切っても切れない関係にある。
2010年11月には20年ぶりに全国規模の総選挙が行われたが、ビルマ族以外では彼が全国で第3位の票数を獲得したというから、少数民族の中ではトップ当選ということになる。アウントン氏の理念はミャンマーの資源を通じて新生ミャンマーを豊かにすることである。私自身も彼の考え方に賛同し、鉱山開発の総代理店契約を結んだ。
■鍵は少数民族との協力
1月に私は枝野幸男経済産業大臣のミッションでミャンマーを訪れた(『ミャンマーの夜明け』参照)。過去3年間、ミャンマーの鉱山開発を目的に何度か訪問しているが、ミャンマーで鉱山開発をすることは大変な仕事である。
ミャンマーはASEAN(東南アジア諸国連合)に残された最大の未開発の資源大国であるが、産業のインフラが未整備なのである。インフラが未整備である原因は、反政府軍が支配している北部の山間部の開発が困難だからである。
鉱山大臣との面談時に「ミャンマーの電話の保有率はまだ5%であるが、5年以内に保有率を50%以上にしたい。そのために、中国との銅の鉱山開発に注力したい」との意見が出た。
それに対して「携帯電話の基地局を5年以内に全国50カ所を無償で提供し、電話の普及率を50%以上にするから銅の鉱山の開発権を我々に貰いたい」との逆提案をした。今から全国に送電網を構築するには電線を張り巡らすより、日本の技術で無線の基地局を50カ所ぐらい設置したほうが多分コストは5分の1以下でできるからだ。
実は枝野ミッションの会議ではヤンゴンにおける商工会議所の重鎮との面談にも、首都ネピドーの政府首脳との面談にも、(私が知る限り)少数民族の代表者の顔は見つからなかった。ミャンマーの民主化は確実にそして持続的に推進されるが、電話の普及も銅鉱山の開発も、北部の少数民族のパワーと協力関係にならない限り成功はしないであろう。
表面的には民主主義国家への大転換を演出しているが、少数民族との折り合いを考えると、先の道のりはかなり厳しいと予見する。なぜならミャンマーの1人当たり国内総生産(GDP)の低さ(500ドル)は、少数民族との格差が足を引っ張っているからだ。アウントン氏は真のミャンマーの民主化を実現する新しいリーダーである。
著者:中村繁夫(レアメタル専門商社 AMJ代表取締役社長)