ミャンマー外国貿易銀行の内部(Photo/(C)WorldStock.JP)
(前編:今がチャンスは本当か!? 煽られすぎのミャンマー投資に警鐘)では現在のミャンマーを取り巻く環境、インフラなどについて書いた。後編では実際に投資をすると考えた場合の具体的な可能性を「通貨」「株」「不動産」の各分野から検討してみたい。
■鼻息が荒いのは外国人ばかり
ミャンマーの通貨は「チャット」で、市中の銀行や両替所で交換できる。が、投資となると、ここでいきなり問題にぶち当たる。基本的に外国人は銀行口座を開設できないことになっているのだ。
同国居住の大使館員や駐在員用には「FEC(兌換券)口座」があり、使用に際しては兌換券を市中でチャットに交換する。交渉次第でFEC口座なら開設できそうだったが、兌換券制度は近々廃止の方向ともいい、とても資金をプールしておく気にはなれない。
証券にせよ不動産にせよ、現地へ赴き現金で取引しなければならないのだ。
株は2社が“上場”しており「ミャンマー証券取引センター」で売買できるという。同センターは日本の大和総研がミャンマー経済銀行に協力して開設された組織であり、日本ではここが“公設取引所”として認知されている。
しかし、実態は異なり、現地では金融機関としての扱い。2社の株も店頭取引で行われているとのことだった。同センターの主業務は「ミャンマーに進出したい日本企業へのコンサル業務」との説明があり、まったくの期待はずれだった。
そもそも、ミャンマーにはまだ「証券法」がない。強いて挙げればイギリス統治下時代の1947年(!)に発布された「外国為替規制法」があるのだが、この法律は外国人への証券譲渡を禁じている。それとて適用されたりされなかったりで、運用はコロコロ変わる。
さらに、証券市場が開設されてもマトモな企業は上場したがらないだろうというのが、現地で聞いたもっぱらの話である。
というのも、国内の有望企業はほとんどが軍関係者や政治家と結び付いた一族の経営で、既得権益で甘い汁を吸えているため、わざわざ財務状況を投資家に公開するメリットが皆無なのだ。
鼻息荒い外国人投資家とは裏腹に、現地の人たちからは証券投資に対して冷めた見方しか聞こえてこなかった。
■危なっかしい不動産売買契約
ミャンマー人が信用している資産は金と不動産だけだというので、不動産投資についても調べてみた。
同国では基本的に土地は国家の所有であり、売買されているのは「使用権」である。使用期限はミャンマー投資委員会の許可を得た場合のみ初回30年+15年+15年の更新だ。取引の根拠となるのは1987年に成立した「不動産譲渡制限法」だが、そこにも「外国人に使用権を譲渡してはならない」とある。
にもかかわらず、日本語メディアにも「ミャンマーの不動産に投資しませんか」といった宣伝を見かける。これは一体どういうことか!?と調べたところ、何のことはない、現地人に資金を預け“代理取得”してもらうビジネスなのだ。
もちろん、土地名義上は現地代理人の所有となる。「問題ない。別の契約書を取り交わして、不動産を売却したあかつきには売却益をお渡しする」というのだが、そんな契約を信用するのは余程のお人好しだろう。
この話を聞いた時は、私が外国人だからカモにされているのかと思ったが、何と現地の人々も同様のやり方で土地使用権を売買しているようだ。土地使用権の名義変更は手数料が高いため、原本の名義変更はしないまま別の契約書を付表の形で交わしているのだ。日付の新しい契約書類が有効で、使用権が人手に渡るたびに新たな付表が1枚ずつ追加されていく。
関係者いわく「不動産取引の98%がこの方法で取引されている」とのことだが、なんとも危なっかしい。とても外国人が不動産投資などできる状況とは思えなかった。
以上のように、いくら新しモノ好きとはいえ、現状では通貨にも株にも不動産にも、投資するには時期尚早との結論を下さざるを得なかった。
正直、街を歩いていてもベトナムやカンボジアで見られたような経済成長の熱は感じられず、ミャンマー投資ブームはマスコミ主導で作られている印象を受けた。
地理的な優位や経済制裁解除後の成長の可能性については否定しないが、実際に投資を検討するのであれば、通貨の換金と決済を保証する「外為法」と、外国人の投資を認める「証券法」「コンドミニアム法」が整備されてからでも遅くはないだろう。
■投資は時期尚早だが旅行にはおすすめ
最後に、投資対象としては期待はずれだったミャンマーだが、旅行先としては非常におすすめできることを申し添えておきたい。
特にパガンの仏教遺跡群は、私が見てきたどの仏教遺跡よりも素晴らしく、間違いなく世界ナンバー1だ。料理はどれも美味しく、特に豚/海老/野菜のカレーは辛すぎず日本人の口に合う。レストランでテーブルにたくさん皿を並べても、300円程度しかしない物価の安さも嬉しい。
同じ仏教国なのでどこか馴染みある雰囲気で、治安も決して悪くない。日本語を喋るガイドは1日35米ドル程度。ヤンゴン~マンダレイ~パガンを訪れる4~5泊程度のツアーがおすすめだ。
(構成/渡辺一朗)
<取材・執筆>
木村昭二(きむら・しょうじ)
慶應義塾大学卒業。複数の金融機関、シンクタンク等を経て現在はPT(終身旅行者)研究家、フロンティアマーケット(新興国市場)研究家として調査・研究業務に従事。日本におけるPT研究の第一人者。