ミャンマーを代表する寺院、シュエダゴン・パゴダ
ミャンマー経済の潜在力がにわかに注目を集めている。中国・インド・東南アジアの中心にありながら、国際社会からの経済制裁で発展が遅れてきた。
しかし、新政権発足以降、欧米諸国との対話が進み、ここへきて制裁解除の流れができつつある。これを受け、同国では外国企業の進出が増えつつあるといい、投資家の注目度も高まってきている。
果たして実際の現地の様子はどうなのか。いち早くミャンマーに投資することは可能なのか!? 海外投資の第一人者・木村昭二が現地へ飛んだ!
■経済制裁解除で急成長確実!?
投資家にとって、後進国が経済成長と共に先進国に追いつこうとする「キャッチ・アップ」の時期こそ、もっとも大きなリターンを狙える絶好のタイミングだ。
インフラが整備され、安い労働力を求めて世界中の企業が工場を建設し、国民の生活水準が向上することで、内需も急速に拡大する。高度成長期のわが国がそうだったし、1990年代のタイやマレーシア、2000年からの中国も同じ道を辿ってきた。
そして今、まさにそのスタートラインに立たんとしているのがミャンマーというわけだ。
ミャンマーはインドシナ半島西部に位置する。人口は5000万人(08年)ほどだが、中国、ラオス、タイ、バングラディッシュ、インドと国境を接しており、周辺には25億人のマーケットを抱えている。
ルビーやサファイアなどの宝石、石油をはじめとした地下資源、木材などの天然資源も豊富と地理的には非常に有利なこの国が、東南アジアの最貧国に甘んじている理由は、軍事政権による人権侵害などを理由に、欧米諸国から経済制裁を受けてきたからだ。
しかし、その経済制裁が解かれる日が近づいている。2011年11月末に政権を握ったテイン・セイン大統領とクリントン米国務長官が会談し、政治犯の釈放や少数民族との関係改善が実現した。
これを受け、欧米諸国は経済制裁解除に向けた具体的な検討に入りつつある。ミャンマーからすれば近年、周辺国が急速に経済発展するのを指を咥えて見ているしかなかったわけで、念願の制裁解除である。
欧米側からしても、この地域における中国の一方的な影響力の増大に歯止めを掛けられる。双方の思惑は完全に一致している格好だ。
経済制裁が解かれれば、安い労働力を求めて海外資本の工場がどんどん建設されるだろう。
実際、ミャンマー人の平均賃金は東南アジアの中でも格段に安く、例えば工場労働者(スリッパを作っている工場)の月給は残業代込みで月80米ドル程度だ。これはタイ人の平均賃金の1/8に過ぎず、カンボジア人のそれより月20米ドル安い。
だが、私が「工場誘致予定地」として連れて行かれた土地は、どれも辛うじて整地されただけの野っ原だった。ここに工場を建てるとすれば、道路や敷地を舗装し、水道を引くところから始めなければならない。
おまけにミャンマーは電力事情が悪いので。停電も頻繁に起こる。まともに操業しようと思ったら、自家発電設備は必須だ。これだけの費用がかかるなら「人件費が1人当たり月20ドル程度高くても、カンボジアの方がいい」となるのではないか。(後編に続く)
(構成/渡辺一朗)
<取材・執筆>
木村昭二(きむら・しょうじ)
慶應義塾大学卒業。複数の金融機関、シンクタンク等を経て現在はPT(終身旅行者)研究家、フロンティアマーケット(新興国市場)研究家として調査・研究業務に従事。日本におけるPT研究の第一人者。