スー・チーさんの髪飾り
「民主化運動のシンボル」という強いキーワードとは裏腹に、後ろ髪のワインレッドと黄色のバラがとても優しく、柔らかな残像となって今もまぶたの奥で輝いている。これほど花の似合う人をほかに知らない。
ミャンマー最大野党、国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チーさんが27年ぶりに日本を訪れた。安倍首相との会談や、かつて在籍した京都大での講演など、国民の話題をさらい続けた1週間の滞在だった。
1988年に民主化運動に身を投じ、軍政との対立で通算15年間の自宅軟禁を強いられたスー・チーさん。2011年の民政移管後に政界入りし、一層の民主化進展への支援を求めて諸国を外遊する。その一環としての今回の訪日だった。
「期待に添えるお答えができないかもしれないが、努力して答えたい」。日本記者クラブでの記者会見。質問者の目を真っすぐに見つめ、誠実に語る凛とした姿が、バラの深紅と浅黄とともに記憶の中に収まった。
ミャンマーでは進む民主化の一方で、政府と少数民族との戦闘や、仏教徒とイスラム教徒との対立も表面化する。憲法改正や大統領就任にも意欲を示すスー・チーさんだが、前途は決して平たんではない。
「さよなら」とあいさつする満面の笑みを残し、成田を発って1週間。日本は春が暮れ、週末からの大型連休を挟んで季節はまた一歩進む。讃岐路は一斉にツツジが咲き始めた。清楚(せいそ)な初夏の彩りに、かの国の明るい未来を重ねてみる。
(U)